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新刊:小説本『Until the End of the World』 コピー24ページ、200円

収録話は三話。タイトルとあらすじは、以下のとおり。
「Until the End of the World この世の涯てまでも」
 1990年代中ごろ、ベルリンにて。悪夢にさいなまれるハインを、グレートさんがなだめる。ふたりは互いに好意を抱いていますが、つきあってはいません。一部アルヒル、少々えぐい描写あり。今回のサンプルは、この話の一部です。
「See Me, Feel Me, Touch Me, Heal Me 恋の病」
 現代、つきあいはじめて1年半ごろの74。R-18。一話目が暗いので、こっちは本当にほぼラブラブセックスしてるだけの74。
「Blenheim Bouquet あなたの香り」
 現代、すでにパートナーとなっている74。香水小咄。

このほか、無料配布ペーパーにも小咄がついています。以下からが本文サンプルです。


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 ほのぼのと湯気をたちのぼらせるマグカップが、目の前に差し出される。ベッドの上で上体を起こし、毛布にくるまったまま、ぼくはそれを受け取った。
 あわい琥珀のいろ。さわやかな香気が、鼻をくすぐる。
 「……ムーンライト?」
 「憶えてたのか。嬉しいね」
 目尻に皺を寄せて、彼がほほえむ。ぼくも嬉しい気持ちに、胸の奥がほんのりとあたたまる。去年彼が引っ越しを手伝いに来てくれたときに、転居祝いにとくれた特別なダージリンだ。忘れるはずもない。
 「百グラム、持ってきたよ。今年のは、去年よりも一層薫り高い。セカンド・フラッシュも手に入れてあるから、次にうちに来るときの楽しみにしていたまえ」
 「……ありがとう、グレート」
 ひと口含むと、ほのかな甘みを感じた。荒く波風が立ったままだった心に、ようやくおだやかな凪の気配が訪れる。心を落ち着けてくれる、情緒不安定な人間にはどんな薬よりもありがたいと、紅茶の効能をことあるごとに主張してやまないのに根負けして、彼の淹れてくれた紅茶をはじめて飲んだときのことを思い出した。もう三十年近く前のことだが、そのときの紅茶の味も香りも昨日のことのように、あざやかに脳裏によみがえらせることができる。
 そのまま黙って、紅茶を啜り続けていると、彼が口を開いた。ためらいがちに、しかし確信を持って。
 「昨晩だけじゃなかろう? あんなにうなされて……ろくに眠れていないんじゃないか。このところ、毎月のようにロンドンに来るから、おかしいとは思っていたが」
 「……」
 「やはりこの街に、おまえさんは住まないほうがいいんじゃないのか」
 彼の問いに頷きたくなくて、ぼくは俯いたまま、マグの底を見つめている。この街に引っ越すと告げたときも、同じことを言われたのを思い返しながら。




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