蝋燭のあかりのみをともした会場に 闇から浮かびあがるようにあらわれた彼は、 コートにマフラーをきっちりと巻いたまま、低い声で朗読をはじめた。 つめかけた観客たちとともに、ぼくも瞬時に、物語の虜となる。 死後も夫の帰りを待っていた女の純情、自分を裏切った夫への 復讐に燃える妻の憤怒、そして不遇の文人皇帝の、癒しがたい絶望。 蝋燭のあかりが揺れる。 あたかもその場に、その者たちの霊魂が舞い降りたかのように。 グレートさんにはぜひ、朗読会をやってもらいたい! 朗読って、要するに独り芝居ですからね。 物語を読みながら、登場人物になりきり 語り部にも徹しなくてはならない。高度な演技テクニックを要します。 身振りを封じ、声だけですべてをあらわさなければならないのは 俳優にとっても、刺激的な修行になるはずです。 落語とか浪曲、琵琶の弾き語りと似ていますが もうちょっと、静謐な感じか……。 これからグレートさんに朗読させようと思っている物語を 琵琶の弾き語りで聴いたことがありますが(平家じゃないです)、 あれは「降臨してるな〜……」って感じでした。(なにが?) 貞淑な妻に、不埒な無法者に、嫉妬に狂う女に はたまた悲劇の帝王に、自在になりきるグレートさんに ハインリヒはまた、しみじみ惚れ直してるといいや。 そして自分も、そんな彼に欺されているんじゃないかと ふと不安にかられて、強引に迫ったりしてればいい。笑 ブラウザの「戻る」で、お戻りください。 |