映画『裏切りのサーカス』について。
以下、ネタバレバリバリで話を進めますので、そのおつもりで。
これまでも日記のほうで幾度か取り上げましたが、
今回はゲイリーが演じた主役のスマイリー周辺ではなく
真犯人だった“テイラー”ことビル・ヘイドン(コリン・ファース)と
彼の学生時代からの“親友”だった実行部隊の
ジム・プリドー(マーク・ストロング)についてです。




英国諜報部サーカスの幹部、ビルはえらい自信家のうえに
とんでもない人たらし。新人の女性が来ると真っ先に口説きまくり
出世のライバルであるスマイリーの判断力を狂わせ、陥れるために
彼の愛妻にまで手をつけ、悪びれる様子もまったくなし。
しかも彼、男女見境いなしなんですね。これがこの映画の謎解き、
スマイリーと部下のピーター・ギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)が
秘密裏に探している、ソ連側への情報漏洩者の正体を知る鍵になります。

映画は実行部隊のジム・プリドーが、上司(ジョン・ハートですよ)に呼び出され
裏切り者の尻尾を掴む密命を受け、ブダペストに飛ぶところからはじまりますが、
彼は作戦に失敗し、背後から銃撃されて倒れます。
劇中、彼は死亡したと語られるのですが、途中で実は生きていることが
あきらかになります。東側に囚われていたものの、
ひそかに解放されて帰国し、教師をしながらひっそりと暮らしている。
銃撃の傷と拷問の影響で、身体がやや不自由になっていることが
生徒から「ノートルダムのせむし男」と揶揄されていることでわかります。
東側にかけあって、彼を救い出したのが、学生時代からの親友ビル。
この件をつきとめたスマイリーらは、ビルこそが真犯人だと気付きます。
まあ、実はサーカス幹部のほとんどが、野心家のビルの言いなりになり
東側と通じていたという、驚愕の真実が明るみにでるのですが……。



ラスト、東側への護送が決まったビルのもとへ、ジムがこっそりやってくる。
ビルはジムにライフルで撃たれ、殺されるのですが
この直前に名曲La Merに乗せて挟まれる、サーカスのパーティの場面の回想と
続く殺害のシーンが、あまりに切なく美しい。
パーティの回想で、無言で見つめあい、ほほえみを交わすふたりに
観客は彼らの本当の関係に気付かされます。
そう、できてたんですね、このふたり。
しかもジムは、ずっと前からビルの裏切りに気付いていて
ブダペスト行きの前にビルに警告していたことが、最後に明かされます。
自分が東側で殺されることで、恋人に内通をやめさせたかったのかも。
ジムは祖国を裏切った恋人に、諜報員として引導を渡すため
そして彼を永遠に自分だけのものにするために、
ひそかに殺しに来た訳ですね……。
木陰からライフルを構えるジムに気付いて、安堵したようにほほえむ
ビルの頬が撃ち抜かれ、涙のように流れる一筋の血。
ライフルを下ろしたビルの眼からも、
同じように涙が一筋、ゆっくりと流れ落ちる。
これぞ、801ロマンスの最高峰ですよ。
ジムにとって、ビルはきっと唯一無二の恋人だったに違いない。
しかもビルは社交的なバイだけど、ジムはゲイで人付き合いは苦手。
超人たらしのビルが、パーティで遊びの獲物を探すさまを
じっと見つめるジムの視線が、すべてを物語っています。
この監督さん、近年稀にみるJUNE(801でもなくBLでもなく)作品
『ぼくのエリ』の方なので、そういう描写が上手いです。


実はコリン・ファースとマーク・ストロング、『キングスマン』でも
諜報部員役で共演していて、しかもコリンの表向きの顔は高級テイラーの職人。
『サーカス』では、テイラーの暗号名をつけられていたので
これは『キングスマン』がパロディとして遊んでいる訳です。
『キングスマン』では、コリンがハインリヒで、スキンヘッドの
マーク・ストロングがまるきりグレートさんっぽいなあと
思って観ていたのですが、『サーカス』のほうは逆。
傲慢なまでの自信家で人たらしなビル(コリン)がグレートさんで
彼を一途に想い続けるジム(マーク)のほうが、ハインです。
おそらく拷問の影響で、ジムは凶暴性を秘め、精神的にも不安定ですが
そんなところもちょっとハインっぽい。
ジムの属する実行部隊は「首狩り人(スカルプ・ハンター)」と呼ばれてて
まあ、死神みたいなもんですね。仲間内からも恐れられています。
『サーカス』だと、スマイリーとピーターも74っぽいし
(そもそもゲイリーは、私にとってはグレートさんの
イメージキャストの筆頭候補ですし
この作品のカンバ―バッチは、まるきり原作初期のハイン!)、
ピーターの部下リッキーと、ソ連の美貌の女スパイはまさに23。
『キングスマン』は、74というより72映画です。
おじさんたちが、チンピラの若者を諜報部員に育てる話なので。







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